本年度は、血液凝固第VIII因子の活性化におけるホスファチジルセリンの役割について、以下の2点に着目し研究を進めた。 1)第VIII因子活性に及ぼすリン脂質構造活性相関 第VIII因子の活性化に要求されるリン脂質構造活性相関を、非天然の合成脂質アナログを含めた各種リン脂質について検討した。その結果、第VIII因子はその活性化にホスファチジルセリンを特異的に要求し、さらに新たに合成したホスファチジルセリンアナログであるホスファチジル-D-セリン、およびホスファチジル-L-ホモセリンでは、全く活性化されないことから、ホスファチジリセリン分子の構造をきわめて特異的に認識している事が明かとなった。同様のホスファチジルセリン特異的要求性は血液凝固第V因子活性化の場合にも観察された。 2)ホスファチジルセリン特異的認識ペプチドモチーフの同定 ホスファチジルセリンを特異的に認識するモノクローナル抗体の構造解析の結果、抗体分子のH鎖CDR3領域がホスファチジルセリンの特異的認識に重要であることが示された。合成ペプチドを用いた解析から、上記H鎖CDR3ペプチドのみで抗体分子と同様にホスファチジルセリンに特異的に結合することが示され、H鎖CDR3配列がホスファチジルセリンを特異的に認識するペプチドモチーフを形作っていることが明かとなった。さらにH鎖CDR3配列を特異的に認識する抗イディオタイプ抗体を用いた解析から、第VIII因子、第V因子およびプロテインキナーゼCが抗体分子と同様のホスファチジルセリン特異的認識モチーフを有し、同部位を介してホスファチジルセリンと特異的に相互作用していることが明かとなった。
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