研究概要 |
マウスやラットを長期間、隔離飼育すると自発運動量の増大や攻撃行動など通常では認められない行動が発現する。動物を社会コミュニケーションから隔絶した場合に見られるこのような異常行動発現の機序は不明である。本研究では隔離飼育による攻撃行動の発現、及び抗うつ薬の攻撃行動促進効果に関与する神経機構について検討した。4週令のddY系雄性マウスを6〜7週間、隔離飼育した後、2匹を少ケージに入れて攻撃行動を観察した。20分間の観察時間中にbiting attackやwrestlingが発現している時間(duration)及び最初の攻撃行動が発現するまでの潜時(latency)を測定した。NA神経終末へのNA取り込みを選択的に抑制するマプロチリン(2.5〜5mg/kg,i.p.)はdurationを増大させた。また、NA取り込み系に対しイミプラミンと同程度の抑制効果を持つアミトリプチリン(5〜10mg/kg,i.p.)及び5-HT取り込み系を優先的に抑制するクロミプラミン(2.5〜5mg/kg)も用量依存的にdurationを増加させた。NA自己受容体遮断作用を持つミアンセリン(5mg/kg,i.p.)もduraitonを増加させた。これらの抗うつ薬は高用量でdurationを減少させるとともに、latencyを延長した。マプロチリン、クロミプラミン、及びミアンセリンの攻撃行動促進効果はα2 結抗薬ヨヒンビンで遮断された。これらの結果はNA取り込みやNA放出を促進する抗うつ薬が攻撃行動に対し促進と抑制の効果を持ち、また促進効果にはα2受容体が関与することを示唆した。一方、NA神経毒素DSP-4 投与は隔離飼育誘発性の攻撃行動発現には影響せず、デシプラミンの攻撃行動促進効果のみを消失させた。これにより、中枢NA神経系は異常行動発現には直接関与しないものの、その行動を調節する機能を有することが示唆された。
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