研究概要 |
マウスやラットを長期間、隔離飼育すると自発運動量の増大や攻撃行動など通常では認められない行動が出現する。申請者らは前年度に、マウスを隔離飼育誘発性の攻撃行動を中枢ノルアドレナリン(NA)取り込み系を阻害する抗うつ薬が増強し、この作用にα2アドレナリン受容体刺激が関与することを明らかにした。本年度は、抗うつ薬の攻撃行動増強作用におけるβ受容体系の役割を検討し、群居及び隔離飼育したラット海馬切片におけるNA作用を電気生理学的に比較した。β受容体の非選択的遮断薬プロプラノロール(2.5〜10mg/kg)は単独では攻撃行動に影響せずに、デシプラミン(DMI;10mg/kg)の攻撃行動増強作用を用量依存的に抑制した。一方、β1受容体の選択的遮断薬メトプロロール(5〜20mg/kg)はDMIの作用には影響しなかった。他方、β2受容体の選択的遮断薬ICI118,551(1.25〜5mg/kg)はプロプラノロールと同様にDMIの攻撃行動増強効果のみを抑制した。またβ2受容体作動薬クレンブテロール(0.1,0.5mg/kg)はDMIと比較して弱いながらも単独で攻撃行動を促進し、隔離飼育により発現する攻撃性に対しα2及びβ2受容体刺激が促進的に働くことが示唆された。一方、隔離飼育したラット海馬CA1野のNA反応性は群居群海馬標本と比べて差がなく、これはCA1野でのNA作用が主にα1及びβ1受容体系を介しているためと考えられた。更に、24〜48時間、隔離飼育したマウスは群居群と比較して行動上の差異が認められず、むしろREM断眠ストレス群で中枢NA神経系α2受容体に直接または間接的に刺激するクロニジン、DMI及びイミプラミンの反応性亢進が認められた。これは長期隔離飼育誘発性の中枢NA神経系機能変化、特にα2受容体系の変化が類似しており、共通の機序が存在する可能性がある。
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