前年度においてヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)をマウス胃から電気泳動的に単一にまで精製し、その性質を明らかにした。本年度は形態や機能において胃のヒスタミン産生細胞と類似の性質を持つ培養肥満細胞であるマウス癌化肥満細胞を用い、胃におけるHDCの働きをモデルとしてin vitroでHDCの誘導調節について調べた。まず癌化肥満細胞の培養液中にデキサメサゾンを添加して培養したところ、HDC活性が約3倍に増加することがわかった。さらにマウスの皮膚などにおいてHDC活性を増加させることが知られているTPAを同時に添加したところ、顕著なHDC活性の増加が認められ、その増加はそれぞれの単独の効果に比べ相乗的であることを見いだした。このTPAとの相乗効果におけるステロイドの特異性について検討を行い、この効果はグルココルチコイドに特異的であることを確かめた。また、細胞内カルシウム濃度を上昇させる刺激としてカルシウムイオノフォアのA23187を、細胞内cAMP濃度を上昇させる刺激としてジブチリルcAMPを用いて癌化肥満細胞を処理したところ、それぞれ単独でHDC活性を増加させるだけでなく、両者の同時添加により相乗効果を示すことがわかった。これらグルココルチコイドとTPA、あるいはカルシウムとcAMPという刺激による相乗的なHDCの活性増大は、HDCのde novo 合成の促進によるものであることを明らかにした。次にHDC遺伝子の5′-上流領域を単離し、転写開始点とプロモーター領域の塩基配列を決定するとともに、バクテリア由来のクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子をレポーター遺伝子としてDNAのプロモーター活性を測定するCATアッセイを行い、これらの誘導現象はHDC遺伝子の転写が直接活性化されることによりおこることを明らかにした。
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