胃において胃酸分泌の促進に重要な役割を果たしているヒスタミンの生合成調節機構について検討するため、まずその生合成酵素であるヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)のマウスの胃からの精製を試みた。マウス1000匹分の胃の10万g上清を出発材料として、硫安分画と7段階のカラムクロマトグラフィーを行ったところ、粗酵素標品から約37500倍に精製され電気泳動的に単一な標品が得られた。精製標品は分子量54kDaのサブユニットからなる二量体酵素で、その比活性は、750units/mgであり、マウス癌化肥満細胞由来のHDCとほぼ同様の値を得た。基質であるL-ヒスチジンに対するKmは0.29mM、Vmaxは1.03umol/min/mgであり、この値も癌化肥満細胞由来のHDCによるものとほぼ同じであった。ノザンブロット解析の結果により、胃に発現しているHDCのmRNAのサイズは2.7kbで、癌化肥満細胞のものと一致した。またHDCのmRNAは、マウスの臓器のうちで胃に最も強く発現していることが示された。RT-PCR法を用いて、mRNA由来のPCR産物のマッピングを行った結果、胃と癌化肥満細胞のHDCは、mRNAのレベルで翻訳領域全長にわたって非常によく似た構造を持つと推定された。以上の結果は、マウス胃のヒスタミン産生細胞が肥満細胞様の性質を持つことを示唆するものである。次に癌化肥満細胞を用い、胃におけるHDCの働きをモデルとしてin vitroでHDCの誘導調節について調べた。その結果、グルココルチコイドとTPA、あるいはカルシウムとcAMPという刺激によりそれぞれ相乗的にHDCの発現が増大することを見出した。さらにHDC遺伝子の5'-上流領域を単離し、転写開始点とプロモーター領域の塩基配列を決定するとともに、これらの誘導現象はHDC遺伝子の転写が直接活性化されることによりおこることを明らかにした。
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