肝実質細胞の肝機能を高度にそして長期間にわたって維持可能な条件を検索したところ、実質細胞を非実質細胞と混合培養することにより肝特異機能が飛躍的に上昇することが明らかとなった。平成4年度までの検討により肝非実質細胞の放出する液性因子が肝実質細胞のチロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)誘導能を著しく促進することが明らかとなったので本年度はその因子の特性調査を行った。 成熟ラットの肝臓よりコラゲナーゼ潅流法により粗肝細胞懸濁液を調製し遠心分離操作により肝実質細胞と非実質細胞を分離した。非実質細胞のみを30〜40時間単層培養し、馴化培地(NPCM)を作成した。肝細胞増殖因子(HGF)が失活する1N酢酸処理、55℃30分の熱処理、ジチオスレイトール(DTT)処理を行い、物理化学的性質をHGFと比較したところ酸処理では失活したが熱及びDTT処理に安定であったところよりHGFとは異なる因子の作用であることが明らかとなった。また非実質細胞を肝障害を引き起こすD-ガラクトサミンで処理した場合その馴化培地(Ga-NPCM)はより高い促進効果を示すという結果が得られた。またマクロファージや血球を活性化することで知られるリポポリサッカライドを非実質細胞に添加してもより高い促進効果を示す馴化培地(LPS-NPCM)が得られることが明らかとなった。そこで上記の物理化学的処理を施したところGa-NPCM、LPS-NPCM共に全処理に対して安定であった。したがってNPCM中の因子およびHGFとは異なる因子が放出されていることがわかった。また3種類の馴化培地中の因子が肝実質細胞のDNA合成を強力に抑制するという結果が得られた。肝機能を促進する因子がDNA合成を抑制する因子と同一である可能性もあり、両活性を指標に現在精製を進めている。
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