研究概要 |
免疫系の中心をなすT細胞の分化やクローン選択そして免疫応答に関しては未解決の問題が多くあるが、その異常に基づく自己免疫疾患、あるいは免疫寛容を必要とする移植免疫の人為的制御は極めて興味ある課題である。特に、臓器移植が医療として定着するにはより安全で、特異的しかも異なるメカニズムを有する免疫抑制剤の開発が急務である。本研究では、まず新しい作用メカニズムを有するアロ移植組織拒絶抑制因子の開発を目的としてマウス混合リンパ球反応(MLR)抑制作用を指標に好熱菌産物及び成分につきスクリーニングを行った。その結果、偏性好熱菌Bacillus stearothermophilius UK-563株の自己消化物デブリのエタノール抽出物に活性を見い出し、さらに作用本体を含む脂質成分Fr.5-Bを分離した。Fr.5-BはConAやLPS刺激による非特異的なリンパ球増殖反応は抑制せず、抗原提示細胞存在下で始めて作用を示した。このものは細胞傷害性T細胞の発現に対しても抑制作用を示し、毒性は示さなかった。さらに、MLR開始48時間後にサンプルを加えてもMLR開始と同時に加えた場合と同様に反応を抑制した。またインターフェロンγによるマクロファージMHCクラスII(Ia)抗原の発現に対して抑制を示した。NMR,GC-MS等による化学構造解析の結果、Fr.5-Bは1,3-diacylglycerolsを主成分とし、脂肪酸は主として炭素数15-17のイソおよびアンテイソ飽和脂肪酸からなることを見い出した。そこで、1,3-di-14-methylpentadecanoylglcerolを合成し、関連脂質と共に種々の生物活性をみた結果、このものがオートMLRを抑制することをおよびサプレッサーT細胞の誘導を促進することを認めた。サプレッサーT細胞の誘導を促進する免疫系作用物質は極めて少なく、免疫応答の人為的制御への応用が期待される。
|