ヒト正常細胞は細胞分裂の可能回数に有限の限界があるが、典型的なガン細胞はこの性質を失って無限に増殖する能力を獲得している。正常細胞の分裂寿命の表現は細胞老化とも称される。本研究の目的は、正常細胞の分裂寿命の限界期において細胞の増殖を停止させるように働いている遺伝子をクローニングし、その機能的役割を明らかにすることにある。前年度の研究では主にサブトラクションcDNAライブラリーからのクローニングに力をそそぎ、得られた遺伝子(cDNA)の塩基配列決定と、遺伝子バンク情報との照合の結果、インターフェロン(IFN)誘導遺伝子とホモロジーが高いクローンがあったことに注目した。IFNは細胞増殖抑制活性をも有することが知られているが、分裂寿命との関係は全く報告されていなかったので、その点について注目し、本研究で以下のことを明らかにした。まず、得られたIFN誘導遺伝子6-16の全長cDNAをクローニングして全配列を決定した。正常細胞・トランスフォーム細胞を問わず、IFNによって誘導される3種類の遺伝子は、いずれも分裂寿命の限界に近づくと急激に発現が上昇した。これは異なった3種類の細胞株で認められ、一般的な現象と思われた。延命期の細胞は明らかに増殖抑制活性のある因子を培地中へ放出していた。培地中のIFNをアッセイしたところ、IFN-βが検出された。しかし、IFN-αとIFN-γは検出されなかった。若い細胞にIFN-βを投与すると、IFN誘導遺伝子が発現し、細胞増殖が阻害された。一方、老化細胞や延命細胞に抗IFN-β抗体を処理すると、高い発現をしていたIFN誘導遺伝子の発現が顕著に抑制された。また、老化期に近くなり、増殖速度の低下した正常細胞にたいして抗IFN-β抗体を処理すると、増殖が促進される傾向を示した。以上の結果を総合すると、分裂寿命の末期に近づくに従って、IFN-βの発現・分泌が上昇し、その結果IFN-β誘導遺伝子の発現が上昇し、細胞増殖が抑制されるものと考えられる。分裂寿命の末期になぜIFN-βの発現が昴進するかが次のプロジェクトとなるであろう。
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