研究概要 |
脳内アルギニンバゾプレシン(AVP)が学習・記憶の過程に促進的に作用することは周知である。すでに各種の健忘モデル動物で脳内AVP含量が低下していることを報告したが,モルヒネ誘発健忘について,従来広く検討されている低酸素への暴露,両側頚動脈結紮による脳虚血,スコポラミン投与あるいは電撃痙攣ショックの負荷などで誘発した健忘と比較しつつ,学習・記憶障害と脳内AVPとの関係を詳細に検討した。 マウスを用いて一試行性受動的回避学習行動を指標に行った実験で,訓練試行前のモルヒネ投与によって用量依存的に健忘が誘発され,この健忘が他の健忘と異なり,脳内(視床下部)AVP含量の低下を伴わず,AVPの脳室内投与によっても回復しないことから,その特異性を明らかにすることができた。これらの成績は、本研究の目的とする中枢高次機能におけるオピオイドの役割を解明するに当り,動物モデルにおける健忘の多様性とともに,学習・記憶の過程への脳内AVPの意義を考える上での新知見で,現在この方面の研究を重点的に継続している。 一方,モルヒネ耐性と学習・記憶形成の経過の類似性が示唆され,また,健忘動物ではモルヒネ反復投与による耐性の形成が抑制されることを報告したが,モルヒネの鎮痛効果に対して耐性となった動物においても,正常動物と同量のモルヒネ投与によって同程度の健忘が誘発されることから,モルヒネ健忘の誘発と耐性形成の機構の相違を示唆した。 さらに,上記の実験において,従来不安の検定に用いられている高架式十字迷路装置が,学習・記憶の検定法に応用できることを証明し,この方法によってもモルヒネ誘発健忘と他の健忘との相違を明らかにすることができた。
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