本研究は、自律神経組織と平滑筋の同時培養により神経筋接合部を再形成させ、シナプス伝達の機序を電気生理学的手法およびCa濃度変化測定の手法を用いて明らかにすることを目的とした。標本としては、交感神経系の上頚神経節と効果器の精管・虹彩縮瞳平滑筋を組み合わせて用いた。幼若ラット上頚神経節をコラゲナーゼで単離し培養した。また、成熟ラットおよびモルモット精管・虹彩縮瞳筋から平滑筋細胞を単離し培養した。 同時培養に先立ち、短期培養(2〜3日)後の神経細胞および精管・縮瞳筋平滑筋細胞の膜電流を単離直後のそれぞれの細胞の膜電流と比較検討した。単離直後の各々の細胞で主に観察される膜電流は、Ca電流、遅延性K電流およびCa依存性K電流がある。それぞれの電流を特異的に抑制する薬物を用いることにより、培養前後での膜電流の性質を検討した。その結果、短期培養によっても、膜電流の種類、性質等はほとんど変化しないことが示された。よって、初期培養による細胞を用いて同時培養をおこなっても、十分、生体内の神経筋接合部のモデルとして利用できる可能性が示唆された。その過程で、細胞内Ca貯蔵部位の膜興奮性の及ぼす影響を検討するべく、小胞体Caポンプの特異的抑制薬であるサイクロピアゾン酸(CPA)の作用を調べた。小胞体貯蔵Caの減少は特にCa依存性K電流の減少をもたらし、神経・平滑筋細胞の興奮性を増大させることが明らかとなった。なお、単離した神経・平滑筋細胞の単独培養は定常的に成功するようになったが、同時培養での成効率はかなり低かった。現在、培養が比較的容易である幼若ラット心筋細胞を用いて、シナプス形成を試みることを検討中である。また、単離直後の平滑筋細胞とは性質が異なっているが、平滑筋の細胞株を用いて、シナプス形成を試みることも検討中である。
|