本研究は、自律神経組織と平滑筋の同時培養により神経筋接合部を再形成させ、シナプス伝達の機序を電気生理学的手法及び細胞内カルシウム(Ca)濃度変化測定の手法を用いて明らかにすることを目的とした。標本としては、交感神経系の上頸神経節と効果器の精管・虹彩縮瞳平滑筋を組み合わせて用いた。また、効果器には心筋も用いた。幼若ラット上頸神経節・心臓、成熟モルモット精管・虹彩縮瞳筋を酵素で処理し、単一細胞を得た後、短期初期培養(1〜7日間)を行った。 培養前後の神経・平滑筋単一細胞にホールセルクランプ法を適用し、膜電流の種類・性質(主にCa依存性K電流[Ik-ca])をそれぞれの電流を特異的に抑制する薬物を用いて比較したが変化は見られなかった。神経・平滑筋細胞の同時培養は、単独培養に比べ著しく成功率が低く、シナプス形成の確認は電子顕微鏡を用いた形態学的な観察に留まった。更に、比較的容易に培養が行える心筋細胞を用いて、神経細胞との同時培養も試みたが結果は同じだった。同時培養を行う過程で、細胞内Ca貯蔵部位が膜興奮性に及ぼす影響を検討するため、小胞体(SR)Caポンプの特異的抑制薬であるサイクロピアゾン酸(CPA)の作用を検討した。CPAによるSR貯蔵Caの減少は、特に活動電位の再分極に寄与しているIk-caの減少をもたらし、神経・平滑筋細胞の興奮性を増大させることが明らかとなった。また、培養細胞に先立ち、モルモット単一心筋細胞にCa蛍光指示薬(Fluo-3AM)を取り込ませ、共焦点レーザー顕微鏡を用いて心筋細胞全体の細胞内Ca濃度変化を観察したところ、通電刺激・興奮性薬物投与により細胞内Ca濃度の上昇が見られた。 以上により、初期培養による細胞を用いて同時培養を行っても、充分、生体内の神経筋接合部のモデルとして利用できる可能性が示唆された。よって、同時培養さえ定常的に成功すれば、上記手段を用いることによってシナプス伝達の機序の解明が期待できる。
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