生理活性物質のある1種類のタイプの受容体刺激によって生じるCaチャネル活性の修飾が、異なる臓器の平滑筋細胞で違うという現象がしばしば報告されている。本研究の目的は、平滑筋細胞Caチャネル活性の制御機構の多様性の原因を解明し、系統的な理解を試みることである。考え得る原因の内で可能性が高いものの一つとして、単一の受容体刺激によって生じる細胞内情報伝達系が複数存在し、Caチャネル制御に対しそれぞれの系の寄与が平滑筋細胞の種類によって異なることが挙げられる。 細胞内Ca上昇によるチャネル不活性化を取り除いた状態で、α1アドレナリン受容体刺激により動脈平滑筋においてはプロテインキナーゼCの活性化を介してL型Caチャネルが賦活化される事が示されているが、精管平滑筋では抑制だけが観察される。この抑制はGTP結合蛋白を介する。α1アドレナリン受容体刺激はフォスフォリパーゼCと同時にA2も活性化し、アラキドン酸を遊離される事が知られているので、精管では遊離されたアラキドン酸及びその代謝物がCaチャネル活性の抑制に関与している可能性が考えられる。確かにアラキドン酸により精管Ca電流は抑制を受けたが、GTP結合蛋白の関与の可能性は少ない事がわかった。またアラキドン酸の作用はスーパーオキシドジスムターゼ、インドメタシン、NDGAで影響を受けなかったので、脂質膜に入り膜流動性を変化させる事によっている可能性が示唆された。ノルアドレナリンのCa電流抑制作用はフォスフォリパーゼA2の抑制薬キナクリン等で影響を受けないので、アラキドン酸産生を介している可能性は低いと考えられる。 尚、細胞内Ca貯蔵部位からのCa遊離を抑制する目的で小胞体Ca-ATPase(Caポンプ)抑制薬のシクロピアゾン酸を使用したところ、Ca遊離で活性化されるCa依存性K電流をかなり選択的に抑制し、平滑筋細胞の興奮性を上昇させることが明らかとなった。非常に有効な薬理学的ツールとして利用できる事がわかった。
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