平滑筋細胞内Ca貯蔵部位と細胞膜興奮性の関連について小胞体Ca-pumpの特異的な抑制薬であるシクロピアゾン酸(CPA)を用いて検討した。平成4年度に膀胱及び回腸平滑筋の単離細胞においてCPAにより細胞内貯蔵Caを枯渇させると脱分極で惹起されるCa依存性K電流が抑制されることを明らかにした。平成5年度では、回腸縦走筋条片標本にガラス微小電極を刺入し、自発性の活動電位発射に対するCPAの作用を検討した。単離細胞でCa依存性K電流を抑制する濃度においてCPAは、活動電位の過分極性後電位を減少させ活動電位の発射頻度を上昇させた。さらにFura-2AMを同組織条片に負荷し、細胞内Ca濃度変化と張力を同時測定したところ、細胞内free Caの貯蔵部位への取り込速度が減少していた。すなわち平滑筋細胞内Ca貯蔵部位はCa取り込及び遊離の量と速度の変化によりCa依存性膜電流の活性を制御し、その結果、間接的にではあるが、極めて強力に膜興奮性を制御していることを明らかにした。これらの研究と同時に、CPAにより細胞内貯蔵部位のCaが枯渇している状態で、電位依存性Caチャネルの活性が上昇する可能性も検討した。因果関係の直接的な証拠は得られなかったものの、枯渇状態ではCaチャネル活性が上昇する方向にある事は確かである。 またモルモット尿管平滑筋細胞の電位依存性Caチャネル電流に対するノルアドレナリン(NE)の作用を検討した。キャリアーイオンがCaの場合、NEによりCa電流は抑制されたが、Baの場合はむしろ若干増強された。さらに細胞内にEGTAを加える実験などにより、NEは細胞内Ca濃度を上昇させることによりCaチャネルを抑制する(CaによるCaチャネルの不活性化)一方で、NE刺激で活性化された細胞内情報伝達系はCaチャネル活性を一部上昇させることがわかった。細胞膜の興奮性を総合的に考えると、NEはCa電流よりもCa依存性K電流をより強く抑制するため興奮性は増大し、活動電位の幅は延長されることが明らかとなった。
|