骨髄性白血病は未だ不治の病であり、有効な治療法の開発が求められている。その一つとして分化誘導療法が注目されている。最近、レチノイン酸誘導体が前骨髄球性白血病患者に対し著効を示すことが明らかにされた。しかし、前骨髄球性以外の骨髄性や単球性の白血病患者に対しては、未だ有効な分化誘導物質は見つかっていない。我々はin vitro培養系で、骨髄芽球性白血病細胞ML-1をマクロファージ方向へ分化誘導する因子を抹消血単核白血球の培養上清より精製し、それが腫瘍壊死因子(TNF)であることを明らかにした。本研究では、分子誘導のシグナル伝達機構を明らかにする目的で、TNFの分化誘導の作用機序とTNFの作用を高める修飾物質の作用機序について検討し、以下2点を明らかにした。 1)TNFによるML-1細胞のマクロファージ方向への分化は、二つのTNFレセプターp55Rあるいはp75Rのどちらか一方の刺激で誘導される。両方のレセプターの刺激で分化は相乗的に誘導される。 2)病原性大腸菌が産生するエンテロトキシンはTNFの作用を相乗的に促進し、両者を併用するとほとんどの細胞(95%以上)が成熟マクロファージ様細胞に変化し、増殖が停止する。エンテロトキシンはGs以外のGTP結合タンパク質をADP-リボシル化し、作用を発揮する。 TNFを分化誘導剤として臨床の場で応用していくことは、現在のところ副作用という点で難しい。しかし、細胞膜レセプターを介した分化誘導のシグナル伝達機構を解析していく上でTNFは有用であり、併用物質によっては副作用を起こさない用法で分化を誘導することが可能になると思われる。
|