カラー印刷のライム病情報に簡単なマダニ咬症に関するアンケート用紙を添付して長野県下の全医師会員に配布し、第一線の臨床家のライム病への関心を喚起した。その結果、1993年中に咬症の報告が44例、血清抗体検査の依頼が24例あり、ともに前年と比較して急増した。慢性遊走性紅斑発症例が5例あり、その3年間の累計は10となった。また、血性抗体陽性でライム病と診断された者が2例あった。今後、アンケートの様式を改良して、同様な調査を継続する。ライム病菌の経卵巣感染の有無を調べるために、野外で採集した200匹余りのシュルツェマダニの未吸着幼虫の消化管を間接蛍光抗体法で検査したところ、すべて陰性であった。この結果に基づいて経卵巣感染は無いもの判断し、調査を修了した。県下のシュルツェマダニがもつライム病菌の遺伝子型による型わけをするために、上高地と美ケ原で多数の成虫を採り、調査を続けている。ライム病菌の病原性に関する前年度の調査を引き継いで、残っていた病理学的な検討を専門家に依頼して完了した。その結果、シュルツェマダニ由来株とヤマトマダニ由来株の一部に関節炎を起こすものがあることが分かった。後者は初めて確認された事例であったので、その病原性株の採れた聖高原とそれに近い明科町および松本市郊外の3地点でヤマトマダニを採集してライム病菌を分離し、合計10株を4週齢スナネズミの腹腔に接種して再度病原性を確かめた。現在この実験を修了した段階であるが、肉眼的には聖高原と明科町の株が関節炎を起こし、松本市の株には病原性がないようにみえた。また、陽性対象として使用したシュルツェマダニ由来株に比べてヤマトマダニ由来株に惹起される関節炎は明らかに軽症であるらしいことも分かった。得られた検体の病理学的検討を来年度おこない、病原性株の決定とその分布を確定する予定である。
|