マウスやラットにおいて、モルヒネを連続投与すると、薬物耐性・依存を生じることが古くから知られているが、その機構に関しては不明な点が多い。NG108-15細胞の核抽出液中にモルヒネの長期処理により変化するDNA結合蛋白質が存在することを見いだしているが、この蛋白質はこれまでに報告されたCRE結合蛋白質とは異なり、1本鎖のCREに特異的に結合する。本年度の研究により、この1本鎖CRE結合蛋白質がマウス脳の粗核抽出液にも存在し、モルヒネの慢性投与によりこの蛋白質のDNA結合活性が大きく変化する結果を得た。 ゲルシフト法を用いて、1本鎖CRE結合蛋白質と2本鎖CRE結合蛋白質の脳内分布を検討した。2本鎖CRE結合蛋白質は大脳皮質、海馬、に比べ、小脳において顕著に結合活性が高かった。これに対して、1本鎖CRE結合蛋白質の結合活性は脳の各部位に見られた。次に、モルヒネ慢性投与を行ったマウス脳を用いて、結合活性の変化を調べた。対照群に比べ、モルヒネ投与群のマウス小脳において、1本鎖CRE結合蛋白質の結合活性が著しく減少した。しかし、他の部位では有意な差が見られなかった。同じ核抽出液を用いて、2本鎖CRE結合蛋白質の結合活性を調べたが、モルヒネ投与によって影響を受けなかった。モルヒネ慢性投与による1本鎖CRE結合蛋白質への効果は小脳でのみ見られることから、非特異的作用ではないと思われる。モルヒネによる1本鎖CRE結合蛋白質の結合活性の減少が蛋白質の量的変化か、DNAに対する親和性の低下によるのかは明らかでない。モルヒネを慢性投与後、2週間休薬したマウスにおいては、1本鎖CRE結合蛋白質の結合活性は減少していた。以上のことから、モルヒネ慢性投与により変化する1本鎖CRE結合蛋白質が小脳に存在し、薬物耐性依存に深く関与している可能性が示唆された。
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