強力な鎮痛薬であるモルヒネは慢性投与により、耐性、依存を生じることが知られているが、これらの耐性、依存や逆耐性現象の分子機構は明らかではない。我々は既に、ソマトスタチン遺伝子のプロモーター領域のサイクリックAMP response element(CRE)を含むオリゴDNAをプローブとしてゲルシフトアッセイを行ない、神経細胞由来のNG108-15細胞の核抽出液中に、モルヒネの長期処理により変化するDNA結合蛋白質が存在することを見いだしたそこで、よりin vivoに近い系としてマウスを用いて、このモルヒネにより変化するDNA結合蛋白質(sCRE-BP)のマウス脳内での分布、その性質及び精製を行った。sCRE-BPの結合活性は脳の各部位に見られた。モルヒネ慢性投与を行ったマウス小脳において、sCRE-BPの結合活性が著しく減少した。しかし、他の部位では有意な差が見られなかった。同じ核抽出液を用いて、2本鎖CRE結合蛋白質の結合活性を調べたが、モルヒネ投与によって影響を受けなかった。つぎに、このsCRE-BPの精製を行った。sCRE-BPはDNAアフィニティカラムとMonoQカラムを用いて、約13000倍精製し、SDS-PAGE上で、分子サイズが35-40kDaの二本のポリペプチドバンドを検出した。次に、この蛋白質をペプチダーゼで分解し、4種類のペプチドのアミノ酸配列を決定した。これらのペプチドをもとにPCRのためのディジェネレートプライマーを合成し、mouse brain cDNAをPCR法により増幅した。PCR産物を用いて、λgt10 mouse brain cDNA libraryをスクリーニングし、クローンを得た。これらのクローンをシークエンスしているが、現在のところ、既知の蛋白質とのホモロジーは見いだされず、新しいDNA結合蛋白質であると思われる。この蛋白質の機能はまだ不明であるが、モルヒネ長期投与により、DNA結合活性が変化することから、モルヒネの耐性依存現象に深く関与していると考えられる。
|