神経情報伝達機構にかかわる化学物質として古典的神経伝達物質以外に神経ペプチドの重要性が注目されている。本研究では、現在、臨床の場で使用されている各種脳循環代謝改善薬について、それぞれの作用特異性を神経ペプチドを指標として解析し、ひいてはそれらの臨床適用に有用な情報を提供することを目的とした。まず、同効薬として市販されており臨床的にはその効果に顕著な差はないとされているBifemelane hydrochloride(BFM・HC1)とIndeloxazine hydrochloride(IND・HC1)を対象として、これら薬剤のラット脳内vasoactive intestinal peptide(VIP)ならびにgalanin(GAL)に対する影響をin vivoで追跡し、その結果を比較解析した。BFM・HC1、IND・HC1はラット腹腔内単回投与により、ともに脳内VIP、GAL濃度を、多様にかつ組織特異的に変動させることを明らかにした。なかでも、BFM・HC1による視床、視床下部VIPの増加、視床GALの減少の効果、また、IND・HC1による大脳皮質VIPの増加効果は、薬剤投与後早期に発現し、かつ顕著であった。こうしたVIPとGALに対する影響という点における両薬剤の相違は、これら薬剤の薬理効果発現に至る機構が明らかに異なることを支持するものであった。また、^3H-BFMをもちい、視床にBFM特異結合部位の存在を認めた。一方、^<14>C-INDは各脳組織に結合し、その結合はIND・HC1により用量依存的に阻害された。各組織間のIND結合親和性には差は認められなかった。本結合部位に対しては、BFM、propranolol、imipramineもほぼ同等の親和性を示し、これらの化合物には、芳香環につながる-O-C-C-C-N-あるいはそれに近似の構造が共通であることを見出した。しかしながら、こうした結合部位へのこれら薬剤の結合が、細胞内生化学的反応へ連動し、薬理効果を発現するための主要なトリガーであるか否か、あるいは神経伝達物質の取り込み阻害に関係するか否か更に検討中である。
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