研究方法;約350gのウイスター系雄性ラットを用い、麻酔下に腹腔動脈に挿入したカニューレを介して、クレブス液を毎分4mlの流速で灌流しながら、両側の迷走神経および左胃動脈周囲の胃交感神経を温存した状態で胃嚢を摘出した。門脈からの流出灌流液を2分毎に採取し、採取した灌流液中の内因性アセチルコリン(ACh)および内因性ノルアドレナリン(NA)を高速液体クロマトグラフィー(酵素カラム)を用いて電気化学的に検出した。実験成績[1]内因性アセチルコリン遊離:(1)迷走神経刺激(2.5Hz)によるACh遊離はオキソトレモリン(ムスカリン受容体刺激薬)により用量依存的に抑制され、一方、アトロピン(ムスカリン受容体遮断薬)により用量依存的に増強した。さらにムスカリン受容体サブタイプとの関連では、4-DAMP(M3ムスカリン受容体遮断薬)、メトクトラミン(M2ムスカリン受容体遮断薬)、ピレンゼピン(M1ムスカリン受容体遮断薬)の順にACh遊離増強作用を表した。(3)迷走神経刺激(1Hz)によるACh遊離はクロニジン(アドレナリン-アルファー2受容体刺激薬)により抑制され、さらに左胃動脈周囲の胃交感神経刺激(5Hz)により著しく抑制された。この胃交感神経性抑制作用はラウオルシン(アドレナリン-アルファー2受容体遮断薬)により選択的に遮断された。[2]内因性ノルアドレナリン遊離:(1)左胃動脈周囲の胃交感神経刺激(5Hz)によるNA遊離は迷走神経刺激(2.5Hz)により抑制され、この迷走神経性NA遊離抑制作用はアトロピンにより消失した。(2)左胃動脈周囲の胃交感神経刺激(5Hz)によるNA遊離はオキソトレモリンにより用量依存的に抑制され、このNA遊離抑制作用はアトロピン、メトクトラミン、4-DAMP、ピレンゼピンの順に遮断された。結論;胃交感神経終末から遊離したNAはアドレナリン-アルファー2受容体を介して迷走神経終末からのACh遊離を抑制する。一方、胃迷走神経終末から遊離したAChは当該神経のM3ムスカリン受容体を介してACh遊離を自己制御し、さらに胃交感神経終末のM2ムスカリン受容体を介してNA遊離を抑制することが明かになった。このように胃壁内において自律神経系は互いに抑制的に作用し合い胃機能を調節するのであろう。
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