延髄吻側腹外側部(RVLM)に存在する血管運動ニューロン機構におけるアセチルコリン伝達物質の役割について検討を行った。麻酔ラットにアセチルコリン(0.3、1μg)およびフィゾスチグミン(30、150ng)をRVLM血管運動ニューロン領域へ微量適用すると、血圧は用量依存性に上昇した。フィゾスチグミン作用はスコポラミン(0.1μg)によって消失した。cis-methyldioxolane(M_2受容体作動薬)適用によっても同様の昇圧を生じたが、M_CN-A343(M_1受容体作動薬)によっては血圧に影響を認めなかった。同定したRVLM血管運動ニューロンにおいて、アセチルコリン(30-100nA)あるいはフィゾスチグミン(10-90nA)の単独イオントコレーシス適用は発火頻度を増大し、フィゾスチグミン前適用はアセチルコリン反応を増強し、スコポラミン同時適用はフィゾスチグミン反応を消失した。高血圧自然発症ラット(SHR)において、フィゾスチグミン(150ng)をRVLMへ微量適用すると、血圧上昇反応は、対照の京都ウィスター正常血圧ラット(WKY)に比較して大きかった。しかし、アセチルコリン(0.3、1g)の同適用による血圧上昇反応はSHRおよびWKY間に差異は認められなかった。 以上の結果から、RVLMに存在する血管運動ニューロン機構において、アセチルコリンが伝達物質として機能していること、関与している受容体はM_2ムスカリン受容体であること、同受容体は血管運動ニューロン上あるいはその近傍に存在すること、本アセチルコリン機構はSHRにおいて亢進していることが明らかとなった。またこのSHRにおけるアセチルコリン機構の亢進はアセチルコリン遊離量の増大に由来していると推察される。現在透析法を応用し、実際、アセチルコリン遊離量がSHRにおいて増大しているのか否かを検討中である。
|