本研究は、細胞内Ca^<2+>量の過剰増量に対する各種Ca拮抗薬の阻害効果ならびにグルタミン酸(Glu)過剰量による脳神経細胞障害に対する抑制効果をグリア細胞数の異なった培養脳神経細胞を用い比較し、中枢性Ca^<2+>調節薬の検定時におけるグリア細胞共存の有用性について考究した。「方法」1)初期培養小脳顆粒細胞の作製は、8日令ラットから摘出し、実験には培養3-6日目の培養細胞を用いた。2)培養細胞内Ca^<2+>量の測定は、Fura-2AMを添加し37℃で45分間のインキュベート後、〔Ca^<2+>〕i測定装置にて蛍光強度を340/380nmの比から算出した。3)Gluによる細胞機能障害の発現有無を検索するため、培養6日目の細胞に1mMGluを6時間適用し、細胞内および細胞外LDH量を、Wroblewski-LaDue法に従い定量解析し、これらの比から細胞機能障害の程度を考察した。「結果」1)高K誘発の培養小脳顆粒細胞内Ca^<2+>量の増量に対して新規Ca拮抗薬であるSM6586およびSM12565はflunarizineやnicardipineとほぼ同様の強い阻害効果(IC_<50>は1ないし3muM)を有することが確認された。2)glutamate誘発の培養小脳顆粒細胞内Ca^<2+>量の増量に対し、SM6586およびSM12565はflunarizineとほぼ同程度である50%阻害濃度が約3muMと、他のCa拮抗薬と比較して20-250倍以上の強い抑制作用が認められた。3)電位依存性のNa^+流入に対してはCa^<2+>流入に対する抑制効果と比較して弱い効果ではあったがSM12565はflunarizineと同様に阻害効果が認められた。4)glutamate誘発の細胞障害に対し、SM6586、SM12565、flunarizineは抑制効果が認められた。しかしながら、これらの抑制効果は神経細胞の周囲に存在するグリア細胞の存在によって影響が及ぼされること、さらには適用の時間によっても効果の違いが認められることが示唆された。なお、SM12565はグリア細胞の存在如何に拘らずglutamateの処置前あるいは後においても抑制効果が観察された。「考察」in vitroの研究成績から、幾種かのCa拮抗薬は、中枢神経細胞のCa^<2+>チャネルに対して明らかに同様な構造式を有していても異なった薬理学的特性を呈する可能性のあることが示唆された。さらに、Gluによる神経細胞障害に対しての阻害効果は、グリア細胞の共存如何によって異なっていたことから、殊にCa薬の中枢拮抗作用をinvitroの系で検索するに際してはグリア細胞を共存させた培養神経細胞を用いてグリアー神経細胞間相互作用を考慮する必要性があるものと思われる。
|