複雑な痛みの治療に使用されているモルヒネの受容体が脳に存在していることが明らかにされて以来、内因性モルヒネ物質としてEnkephalinが脳より発見され副作用のない鎮痛薬として期待されてきた。Enkephalinが中枢系の痛みに如何なる役割を果しているか研究していく過程で、ヒト脳脊髄液中に内因性Enkephalinを調節する低分子の因子が存在していることを掴んだ。我々は、その調節する因子の構造を解明するために、それぞれのEnkephalin分解酵素の阻害活性を指標として生体内より探索し、脊髄50kgよりカラム操作で0.6mg単離し、機器分析により構造Leu-Val-Val-Tyr-Pro-Trp-ThrのSpinorphin(スパイノルフイ)を推定し、合成することに成功した。SpinorphinはそれぞれのEnkephalin分解酵素を強く阻害し、水、有機溶媒に可溶の特性を有している最強のEnkephalin分解酵素阻害物質である。本物質は単独で摘出平滑筋標本を用いた電気刺激収縮を濃度依存的に収縮抑制効果し、脳室内投与により薬理試験でモルヒネと同様のオピオイド活性を発現することを明らかにしている。本年度、Spinorphinが脊髄抽出液、脳脊髄液中でプロテアーゼにより安定であるかをHPLCで検討した。Spinorphinの分解フラグメントを詳細に解析し、それぞれのフラグメントを合成した。その結果、本物質は体液中でEnkephalinの半減期と比較して5倍以上長い特色のあるペプタイドであることが判明した。更に、脊髄中におけるSpinorphinの代謝酵素はAminopeptidase Mが要として働き、7個のアミノ酸から成るSpinorphin構造が活性発現に必須で有ることが判明した。本物質は脊髄に高濃度存在し、新しいオピオイド活性を有するEnkephalin調節因子の可能性が考えられた。
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