本研究の目的は、日常診療で頻用される臨床検査の使い方、治療方針の立て方について判断学の手法を用いて解析することにより、最適化された規範的診療指針の作成方法を明確にすることにある。 本年度は、検査部で蓄積された検査データと情報部に蓄積された診療データを統合した診療疫学データの集計結果を基にして、「治療前に検査する」方策と「先に治療し症状が続けば検査する」方策を解析した。その結果、尿細菌培養検査を治療前に実施することは臨床上得策とは言えないが、尿グラム染色検査を実施して抗生物質を選択することは効果的な方策であることが明確になった。急性単純性膀胱炎ではグラム陰性桿菌が90%を占めるとされるが、この検査前確率は、検査結果を参照して投薬するか、検査とは関係無しに型通りに投薬するかの判断の分かれ道であり、グラム陰性桿菌の頻度が低くなる状況ではグラム染色の臨床情報の価値が高くなった。 広範な診療データを収集して疫学調査診療を支えるためのprospectiveなデータベースを作成するには、検査項目、検査単位、表示形式などの情報処理の標準化が不可欠であり、複数施設の患者データを利用する包括的な方式の開発が、今後の課題として残った。
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