酸性尿中ではβ2-マイクログロブリン(β2-m)は急速に抗原性を失う。この機序を解明することにより、尿蛋白測定のための至敵なサンプリング、保存法を確立することを最終目標に研究を進めた。 1)β2-mとの比較から、α1-マイクログロブリン(α1-m)、プロテイン1(P1)など7種類の成分の安定性について比較検討した。共通しているのは、pH4.0ではほとんどが確実に変性することで、この中でβ2-mはもっとも強い変性が見られ、調査した成分中もっとも不安定であることが判明した。従来から考えられているような糖鎖が必ずしも安定性に寄与するものではなく、β2-mに特有な構造特性がその安定性に深く関与していることが示された。正常者尿に比べ、慢性腎不全患者尿において安定性が高い傾向がある。これは腎不全の進行に伴い、尿中酸性プロテアーゼの活性が制御されるためと思われる。 2)腎不全患者尿をConAカラムにapplyした後、結合フラクション、通過フラクションを、それぞれゲルろ過法により分離して、得られたフラクションをそれぞれをpH5.0およびpH7.0に調整して、β2-mの安定性をみた。ConA通過分画にβ2-mを変性させるフラクションが新たに見い出された。今後、患者病態別にまた正常者についても同様な方法により、検討を要する。 3)この研究に関連してNAG-Bアイソザイムの測定系の確立とその病態検査上の意義について検索を進めた。ヒト胎盤からNAG-Bを精製、モノクローナル抗体を作製、新しくNAG-B酵素免疫測定法を確立し、基準範囲を設定した。NAG-BはpH8.0以上のアルカリで不安定であったが、通常の状態ではきわめて高い安定性を維持していた。 4)ネフェロメトリーを用いて、新たにα1-mの測定法を確立、定性を検索した結果、α1-mがもっとも尿中で安定であることが、新たに示した。
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