研究概要 |
ストレプトゾシンにより糖尿病ラットを作成し、神経再生障害の有無、およびその機序について検討した。糖尿病ラットで坐骨神経を完全切断し、経時的に2,3,および4週後に神経試料を採取し標本作成した。観察の目的としては、切断端における再生有髄神経の数、密度、再生神経面積などをみた。一方、再生神経障害機構の検討のためには、免疫組織化学的に神経成長因子受容体(NGFR)の発現について検討した。また、軸索骨格蛋白合成状態を見る目的から、脊髄知覚神経節におけるニューロフィラメント(NF-68)mRNA発現について検討した。 結果として、糖尿病ラットでは正常対照ラットと比較して、神経切断後の再生神経線維の数、密度の減少はみられず、また再生ユニット当りの神経数でも減少はみられなかった。これに比し、再生線維の面積(太さ)は糖尿病ラットで有意の減少をみた。また、再生線維は糖尿病で髄鞘の不整を示す線維が多かった。一方、NGFR発現は6週後の時点で糖尿病ラットでやや低下を示した。また、脊髄知覚神経節でのNF-68mRNAの発現は、糖尿病ラットで有意の源少をみた。これらの結果から糖尿病ラットでは正常ラットに比し再生線維の径の減少が明らかで、軸索骨格蛋白の合成の障害がその原因の1つとして重要であることが示唆された。一方、少数例ではあるがヒト糖尿病患者より得られた末梢神経生検材料についてNGFR発現を検討したが、通常の軸索変性を主体とするニューロパチーと同様のNGFR発現をみた。これに比し、脱髄型ではNGFR発現はみられず、糖尿病での神経障害は軸索変性を主体とする所見であることが確認された。 以上の結果から糖尿病では神経再生の障害が軸索骨格蛋白合成の不全を基盤として起こり、NGFR発現とも関連することが示唆された。
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