本研究の目的はヒトでの感染症での発熱時などに認められる視床下部・下垂体・副腎系の賦活化機構を動物実験により明らかにすることにある。平成4年度にはラット脳のpush-pull perfusion(PPP)法を用いてinterleukin(IL)-1βのcorticotropin-releasing hormon(CRH)neuronal systemへの作用部位について検討したが、平成5年度にはIL-1βによるCRH-ACTH分泌への脳内のprostaglandin(PG)の関与について検討した。脳内のPG、特にPGE_2がIL-1βの作用を仲介しているという成績がいくつかの研究グループにより報告されているが、IL-1β投与によるラット視床下部でのCRH、arginine vasopressin(AVP)、およびPGE_2などの変動をin vivoの実験系で観察した報告はない。このことから、平成5年度にはPPP法を用いてIL-1β静注後のCRH、AVP、およびPGE_2の変動をparaventricular nucleus(PVN)(CRH及びAVP neuronの細胞体が存在)、median eminence(ME)(CRH及びAVP neuronのaxon terminalが存在)、およびpreoptic area(POA)で観察した。その結果、PGE_2はPVNでのみ有意に増加し、それは同部位でのCRHおよびAVPの分泌亢進と同期していた。このことは、IL-1β静注投与後のCRHおよびAVP neuronの賦活化にはPVNあるいはその近傍でのPGE_2分泌の亢進が深く関与していることを示唆する。IL-1βの静注投与によるラット視床下部でのCRH、AVP、及びPGE_2分泌の変動を同時に検討したのは本研究が世界初であると考えられる。
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