本研究の目的はヒトにおける感染症での発熱時などに認められる視床下部・下垂体・副腎系の賦活化機構を動物実験により明らかにすることにある。本研究の最終年度である平成6年度には、当初の予定通り次の2項目について検討した。(1)interleukin(IL)-1βによるACTH分泌には脳内のcorticotropin releasing hormone(CRH)とarginine vasopressin(AVP)の分泌亢進が関与していることが知られている。ACTH分泌を刺激するとされている神経ペプチドには、このCRHとAVP以外にoxytocin(OT)、angiotensin II(AII)、およびcholecystokinin(CCK)-8などがあるが、IL-1βによるACTH分泌にこれらのペプチドが関与しているのか否かについては不明である。従って、このことを検討する目的から、OT、AII、CCK-8に対する抗体をラット第3脳室内に投与し、これらのペプチドの免疫学的中和がIL-1βによるACTH分泌に及ぼす影響を調べた。その結果、IL-1βによるACTH分泌は抗AII抗体の投与により有意に抑制されたが、抗OT抗体および抗CCK-8抗体によっては有意な影響を受けなかった。このとこから、IL-1βによるACTH分泌はCRHとAVPに加えてAIIによっても仲介されているが、同反応へのOTとCCK-8の関与はないものと考えられた。(2)IL-6およびtumor necrosis factor(TNF)-αなどのサイトカインも、IL-1と同様にCRH分泌を促進し、ひいてはACTH分泌を促進することが知られている。しかし、これらの反応へのAVPの関与については不明である。このことを検討する目的から、抗AVP抗体をラット第3脳室内に投与し脳内AVPの免疫学的中和がIL-6とTNF-αによるACTH分泌に及ぼす影響を調べた。その結果、IL-6によるACTH分泌は抗AVP抗体により有意に抑制されたが、TNF-αによるACTH分泌は有意な影響を受けなかった。このことから、AVPはIL-6によるACTH分泌を仲介してはいるが、TNF-αによるACTH分泌への関与はないものと考えられた。これらの成績は現在までに報告がない。
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