研究概要 |
本研究では、細菌感染症などの際に免疫担当細胞から産生される種々のサイトカインによる視床下部・下垂体・副腎系の調節機構をラットを用いて検討することを目的とした。当該研究の研究期間のうちに本研究代表者が得た新地見は次の通りである。 (1)Interleukin(IL)-1βは視床下部・下垂体・副腎系の賦活化作用を有する最も重要なサイトカインであることが知られており、このIL-1βによるACTH分泌は主に視床下部corticotropin releasing hormone(CRH)の分泌亢進を介しているとされている。しかしながら、CRH neuronal systemにおけるIL-1βの作用部位については明らかではなかったことから、本研究代表者はこのことをラット脳のpush-pull perfusion(PPP)法を用いて検討した。その結果、IL-1βはCRH neuron細胞体の存在する室傍核とCRH neuron軸策末端の存在する正中隆起の両者に作用することを見い出した。また、IL-1βによるACTH分泌はCRHのみならずarginine vasopressin(AVP)によっても仲介されていることを示唆する成績を得た。 (2)IL-1βによるACTH分泌には脳内prostaglandin(PG)E_2の分泌亢進が関与しているとされているが、このことの詳細をPPP法により検討した。PPP法を用いて、IL-1β静注後のPGE_2の分泌動態を脳内の種々の部位において検討したところ、PGE_2は室傍核においてのみ有意な増加を示し、それは同部位でのCRHの分泌亢進と同期していた。このことは、室傍核におけるPGE_2の分泌増加がIL-1βによるCRH-ACTH分泌亢進のtriggerである可能性を示唆する。 (3)脳内の神経ペプチドの免疫学的中和法を用いて、IL-1βによるACTH分泌はCRHとAVPのみならず,angiotensin IIによっても仲介されていることを見い出した。また、同様の手法を用いて、IL-6によるACTH分泌にはCRHとAVPの両者が関与しているが、tumor necrosis factor-αによるACTH分泌にはCRHのみが関与していることを見い出した。
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