細胞外液カルシウム(Ca)による遺伝子発現抑制機構にかかわる核内転写因子(nCaREB)の構造解明を目的に、まず、SDSポリアクリルアミド電気泳動(PAGE)と標識オリゴヌクレオチド(nCaRE)を用いて、培養細胞核蛋白のサウスウェスタン解析を行なった。その結果、高濃度のジスレイオトール(DTT)存在下で、塩基配列特異的にnCaREと結合する約35キロダルトン(KDa)の蛋白を見いだした。この蛋白のDNA結合活性は、細胞外液Ca濃度の上昇に伴い増強した。次に、nCaREBをクローニングする目的で同様のサウスウェスタン法を用いてHeLa細胞cDNAライブラリーをスクリーニングした。その結果得られた3種のクローンのうちの一つ、分子量37KDaの蛋白refl(redox factorl)についての解析を進め、以下の知見を得た。1)大腸菌で大量発現させたreflのSDS-PAGEを行い、サウスウェスタン法により、このreflがやはりnCaREと特異的に結合することをゲル上で確かめた。2)ほ乳類培養細胞にトランスフェクションしたreflは、ゲルシフトアッセイにおいてnCaREB活性を明らかに増強した。3)in vitro translationによって発現させたreflにはDNA結合活性は殆ど見られなかった。このことは、細菌や培養細胞において保存されているなんらかの蛋白修飾機構(酸化還元反応など)が、reflのDNA結合に必要であることを示す。4)培養細胞にreflを導入した系において、nCaREを含むレポーター遺伝子を同時導入し、細胞外液Ca濃度の変化が、レポーター活性に与える効果を調べた。その結果、reflなしで認められた、細胞外液Ca濃度依存的なnCaREを介するレポーター活性の低下がrefl存在下では消失し、高い外液Ca濃度の場合ばかりでなく、低い外液Ca濃度においてもレポーター活性は低下したままであった。このことは外液Caによる情報がreflに伝わる機構は未だ不明であるものの、reflがnCaREBそのものか、または、少なくともnCaREBの活性を増強する核蛋白であることを強く示唆する。
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