研究概要 |
1。家兎及びラットをヒトサイログロブリンで免疫し抗甲状腺ホルモン抗体を作成させサイログロブリンの甲状腺ホルモン合成部位(hormonogenic site)の抗原性の検討を行った。我々が既に合成し以前に報告したサイログロブリンの甲状腺ホルモン合成部位(hormonogenic site)を構成するTyrosineを含んだペプタイド(HTg-1(1-10),HTg-2(2547-2558),HTg-6(2737-2748),HTg-7(2547-2571))及びコントロールとしてのhormonogenic tyrosineを含まないペプタイド(HTg-3(2581-2591),HTg-4(2592-2603),HTg-5(2687-2694)を^<125>Iで標識し、家兎抗ヒトサイログロブリン抗血清(TG-1,TG-2)と免疫沈降反応を行った。その結果、HTg-2で11.5%(TG-1)、19.9%(TG-2)という高い結合率を示した。HTg-1,HTg-6,HTg-7の結合率は10%以下であった事から、4つのhormonogenic peptideの中でTyr^<2553>を含んだペプタイドの高い抗原性が示唆された。しかしながら抗甲状腺ホルモン抗体陽性例に於いては何れのhormonogenic peptideも血清との有意な高い結合を示さず、抗甲状腺ホルモン抗体産生に関与するhormonogenic site(s)はこの方法では明らかにする事は出来なかった。 2。H-2 haplotypeの異なったマウスをサイログロブリンで免疫し所属リンパ節から得たリンパ球を用い合成ペプタイドでの幼若化反応を行った。その結果、C57BL/6,BALB/c,B10BR,C3H,CBA/jの各strainでHTg-1,HTg-2,HTg-6,HTg-7の高いstimulation index(SI、1.5〜5.9)が得られた。 DBA/2マウスに対してはこれらpeptideは何れもSIで1程度と無反応であった。これらの結果はリンパ球レベルでのhormonogenic peptidesの高い抗原性、液性免疫レベルでのHTg-2 peptidesの高い抗原性を示唆するものであった。抗甲状腺ホルモン抗体陽性症例(Graves病2例、橋本病3例)から末梢血リンパ球(PBL)を得、ヒトサイログロブリンや合成ペプタイドでの幼若化現象(blastogenesis)の検討も行なった。その結果、いずれの合成ペプタイドもPBLに対してはSIで2以上の反応を示さなかった。同時に行行ったPBLでのヒトサイログロブリンに対する幼若化反応もSIで2程度と低値に留まったことから、この結果は末梢血でのヒトサイログロブリン感作リンパ球の濃度が低いことに起因するとも考えられた。 3。甲状腺ホルモン抗体の臨床的、生理的意義を検討する為,ラットをサイログロブリン免疫し抗甲状腺ホルモン抗体を作成し、血清T3,T4,TSHの測定を行った。その結果、エタノール抽出後の甲状腺ホルモン値の高濃度にも拘らず、TSH値は正常範囲内の値に留まった。この事は抗甲状腺ホルモン抗体の存在それ自体は、間脳-下垂体-甲状腺フィードバック機構に何等影響を与えるものでない事を示唆する結論であった。抗甲状腺ホルモン抗体陽性症例での研究でも同様な結果が獲られた。
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