本年度は、線維芽細胞で発現される遺伝子のうち、T_3添加によりその発現が変化する遺伝子、すなわちT_3応答性遺伝子の発現が、c-erbA β遺伝子の点突然変異を有するheterozygousの症例、β遺伝子が欠損している症例、およびc-erbA遺伝子には異常が認められない症例で、T_3によるT_3応答性遺伝子の発現調節がいかに異なるかを検討することを目的とした。培養線維芽細胞におけるT_3応答性遺伝子として当初、フィブロネクチン(FN)やコラゲナーゼを考えていたが、T_3添加によるFN mRNAの減少は30-50%で変化が少なく、またコラゲナーゼmRNAはT_3以外の要因で変化したため、T_3作用の指標としては適当とはいえず、線維芽細胞で発現する新たなT_3応答性遺伝子を見いだす必要に迫られた。そこで我々が注目したのが、T_3の前駆体であるT_4からT_3への転換を触媒する酵素、I型5'-脱ヨード酵素(5'DI)である。この酵素の遺伝子発現は、肝臓でT_3投与により著名に増加することが既に報告されていたが、これがT_3の直接作用によるものか、それともT_3投与による生体の代謝変化により生ずるものかは明らかでなかった。そこで、本研究では、ラット初代培養肝細胞を用いて、T_3の5'DI mRNAに対する直接作用を検討した。その結果、従来の単層培養に比べ肝細胞の分化機能を良好に保つとされているスフェロイド培養を用いることにより、T_3が直接肝細胞に作用して、他の蛋白合成を介することなく5'DI mRNAを著しく増加することが示された。したがって、5'DIがT_3作用の指標として適したものであることが示された。そこで、5'DI mRNAが線維芽細胞ではT_3によりどの様に調節されているかを線維芽細胞スフェロイドで検討した。しかしながら、線維芽細胞スフェロイドより得られるRNA量は僅かでノーザンブロット解析に供するには充分でなかった。そこで現在、少量のmRNAを検出できるReverse transcription-Polymerase chain reaction(RT-PCR)法で検討中である。
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