平成4年度では、線維芽細胞における甲状腺ホルモン(T_3)受容体(TR)遺伝子の発現を検討した結果、遺伝子の変異により正常遺伝子の発現が抑制することはなく、甲状腺ホルモン不応症の発症機序として、正常TR遺伝子の発現抑制は考えにくいことが示された。最終年度(平成5年度)は、線維芽細胞で発現される遺伝子のうち、T_3添加によりその発現が変化する遺伝子、すなわちT_3応答性遺伝子の発現が、c-erbA β遺伝子の点突然変異を有するheterozygousの症例、β遺伝子が欠損している症例、およびc-erbA遺伝子には異常が認められない症例で、T_3によるT_3応答性遺伝子の発現調節がいかに異なるかを検討することを目的とした。培養線維芽細胞におけるT_3応答性遺伝子として当初、フィブロネクチン(FN)やコラゲナーゼを考えていたが、T_3添加によるFN mRNAの減少は30-50%で変化が少なく、またコラゲナーゼmRNAはT_3以外の要因で変化したため、T_3作用の指標としては適当とはいえず、線維芽細胞で発現する新たなT_3応答性遺伝子を見いだす必要に迫られた。そこで我々が注目したのが、T_3の前駆体であるT_4からT_3への転換を触媒する酵素、I型5'-脱ヨード酵素(5'DI)である。この酵素の遺伝子発現は、肝臓でT_3投与により著名に増加することが既に報告されていたが、これがT_3の直接作用によるものかは明らかでなかった。そこで、本研究では、ラット初代培養肝細胞を用いて、T_3の5'DI mRNAに対する直接作用を検討した。その結果、T_3直接肝細胞に作用して、他の蛋白合成を介することなく5'DI mRNAを著しく増加することが示された。5'DIがT_3作用の指標として適したものであることから、次に5'DI mRNAが線維芽細胞ではT_3によりどの様に調節されているかを線維芽細胞で検討した。しかしながら、線維芽細胞における5'DI mRNAの発現はきわめて僅かであったため、現在、少量のmRNAを検出できるRT-PCR法で検討中である。
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