糖尿病性腎症初期の機能的変化は、糸球体濾過値(GFR)の上昇であるとされており、このGFRの上昇が長期間持続することが、糖尿病性腎症に特有の糸球体硬化性病変の発症・進展と関連していると報告されている。従って糖尿病におけるGFR上昇の機序を解明することは、糖尿病性腎症の発症機構を明らかにする上で極めて重要であると考えられる。研究代表者らは既に、糖尿病ラットより単離した糸球体のアンジオテンシンIIに対する収縮応答性が、正常ラット糸球体に比し有意に低下していることを報告し、糖尿病においてメサンギウム細胞収縮機能障害が生じ、これがGFR上昇に寄与している可能性を提唱した。本年度は、糖尿病態におけるメサンギウム細胞収縮機能障害の分子機構を明らかにする目的で、高糖濃度条件下で培養したメサンギウム細胞の種々の血管作動性物質に対する応答性を細胞内情報伝達系の面から検討した。その結果、1、血管弛緩性物質であるANPの細胞内cGMP増加作用は高糖濃度条件下で培養したメサンギウム細胞で亢進しており、これは膜結合型グアニル酸シクラーゼの活性化に起因すると考えられた。2、血管収縮性物質であるアンジオテンシンIIの抗ANP作用は、高糖濃度条件下で減弱していた。3.アンジオテンシンII結合能は変化していなかったが、アンジオテンシンIIのIP_3産生増加作用は高糖濃度条件下で低下していた。4.C-キナーゼ活性基礎値は高糖濃度条件下で上昇していたが、アンジオテンシンIIによる活性化は減弱していた。以上の成績より、高糖濃度条件下で培養したメサンギウム細胞は細胞内情報伝達系の変異のため収縮障害を呈しており、むしろ弛緩傾向にあると推定される。このメサンギウム細胞の機能障害は糖尿病におけるGFR上昇の成因の一つであると考えられる。平成5年度は細胞内情報伝達系の変異に関し、より詳細に検討する予定である。
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