平成4年度は、糖尿病状態におけるメサンギウム細胞収縮機能障害の分子機構を明らかにする目的で、高糖濃度条件下で培養したメサンギウム細胞の種々の血管作動性物質に対する応答性を細胞内情報伝達系の面から検討し、以下の結果を得た。1.血管弛緩性物質であるANPの細胞内cGMP増加作用は高糖濃度条件下で培養したメサンギウム細胞で亢進しており、これは膜結合型グアニル酸シクラーゼの活性化に起因すると考えられた。 2.血管収縮性物質であるアンジオテンシンIIの抗ANP作用、およびIP3産生増加作用は、高糖濃度条件下で減弱していた。3.PKC活性基礎値は高糖濃度条件下で上昇していた。 平成5年度は、特にPKCアイソエンザイムおよびPKC活性化とアンジオテンシンII作用減弱との関連性を検討した。メサンギウム細胞には種々のPKCアイソエンザイムのうち、PKCα、δ、ε、ζが存在していた。高糖濃度条件下で培養した細胞では、膜分画PKCαおよびζが増加していたが、両者の時間経過は異なっており、PKCαの増加がPKC活性の増加と同様の時間経過をとった。また、TPA刺激にPKCαは反応したが、PKCζは変化しなかった。従って、両者の増加機構は異なると考えられた。更に、高糖濃度条件下で培養した細胞にPKC阻害剤を加えることにより、平成4年度に示した、アンジオテンシンIIに対する応答性の低下(IP3産生増加の減弱)は消失し、正常糖濃度条件下の細胞と同様のレベルまで回復した。 以上の成績より、糖過剰状態のメサンギウム細胞では、主にPKCαが活性化されており、このPKCαの持続的活性化がアンジオテンシンII作用の脱感作を惹起し、メサンギウム細胞収縮機能障害を引き起こしていると推定された。このメサンギウム細胞の収縮機能障害は糖尿病におけるGFR上昇に強く関与していると考えられる。
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