(目的)核分裂に影響を与えずに細胞分裂のみ抑制する作用を有するcytochalasin Bを用い、甲状腺増殖刺激抗体の測定法の開発を試みた。(方法)ラット培養甲状腺細胞株であるFRTL-5細胞を各種甲状腺増殖刺激物質やlgG(3g/L)とcytochalasin B(2mg/L)を加えた5H培養液で3日間培養した。次に細胞をプレートよりはがして、浮遊液をスライドガラスの上に固定、染色したあと、顕微鏡下に観察し、N/C比すなわち細胞数に対する核数の比を算出した。(結果)TSH刺激に対しては1mU/Lの濃度で有意の増加が見られ、さらに濃度の上昇とともに用量反応性にN/C比が増加し、1 U/Lではほぼ2となった。forskolin、choler a toxin、dibutyl cAMPでも用量反応性にN/C比の増加が認められ、増殖刺激が少なくともcAMPを介していることが示された。健常者lgG(n=17)使用時のN/C比は1.063±0..014(SD)であった。未治療バセドウ病および橋本病患者lgGのN/C比はそれぞれ1.206±0.146(n=27)、1.141±0.031(n=14)であり、全例が正常値の平均±2SD(1.091)より高い値を示した。一方、甲状腺腫が触知されない原発性粘液水腫患者の4例のN/C比は全例正常範囲内であった。バセドウ病においてN/C比は推定甲状腺重量と有意の相関関係を示したが(P<0.05)、cAMP産生を指標として測定される甲状腺刺激抗体(TSAb)との関係は有意でなかった。橋本病患者は全例TSAb陰性であった。阻害型TSH受容体抗体陽性lgGはTSHおよびバセドウ病患者lgGによる増殖刺激活性を抑制したが、橋本病患者lgGによる増殖刺激には影響を及ぼさなかった。これらの事実より、免疫グロブリンによる増殖の機構にはcAMP以外の信号も関与している可能性が示唆された。(結語)本法により測定された甲状腺増殖刺激抗体の測定は臨床的に十分応用が可能なものと考えられた。
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