研究課題
一般研究(C)
糖尿病患者にみられるインスリン抵抗性は、インスリンレセプターの自己燐酸化の低下が主因であると考えられる。その際に、PTPaseが果たす役割を検討するため、大量のPTPase及びインスリンレセプターを発現させ、インスリンレセプターを基質としたPTPaseの酵素学的性状を検討せんとした。PTPase cDNA、インスリンレセプターcDNAを発現ベクター(pVL1392.pVL1393)に組み込んだ。これとともに野生型baculovirus(AcMNPV)を昆虫の細胞(sf9)へ感染させ、その際に組替えを起こさせ、組替え体を選択した。この組替えウィルスをsf9に感染させ、PTPaseを大量に発現、部分精製した。ラット肝より回収したインスリンレセプターを、^<32>P-ATPを用いて自己燐酸化し、これを基質として部分精製PTPaseの活性を測定、性状を検討した。その結果、このPTPaseは自己燐酸化したインスリンレセプターを基質とすることが明かとなった。また、ストレプトゾトシン糖尿病ラットの肝臓によりRNAを回収し、PTPase mRNAの発現量を測定した。その結果、非糖尿病ラットに比し、PTPase mRNAの発現量は有意な差を認めなかった。従って、少なくともこのPTPaseは、糖尿病状態では、mRNAのレベルではなく、翻訳以降の段階またはその酵素活性の亢進により、インスリンレセプターの自己燐酸化能を低下させている可能性が推測された。さらに、発現ベクターpcDL-SRαにPTPase遺伝子を組み込み、培養肝細胞HepG2にtransfectし、部分精製したインスリンレセプターの自己燐酸化能を測定し、糖尿病状態におけるPTPaseの果たす役割を検討した。その結果、PTPaseを発現させたHepG2においては、インスリン刺激時のインスリンレセプターの自己燐酸化能の低下が認められ、このPTPaseはインスリンレセプターの脱燐酸化を起こすことが確認された。以上より、糖尿病におけるインスリン抵抗性の一因として、PTPase活性の亢進によりインスリンレセプターの脱燐酸化が進み、インスリンレセプターの自己燐酸化が低下していることが証明された。
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