研究概要 |
内分泌腫瘍における腫瘍化の分子生物学的機構を明らかにするため、内分泌腫瘍での、癌遺伝子であるras遺伝子および癌抑制遺伝子であるp53遺伝子の塩基置換および欠失の有無について検討した。 〔対照および方法〕 下垂体腺腫、甲状腺腫瘍、副甲伏腺腫瘍、膵内分泌腫瘍、副腎皮質腫瘍、褐色細胞腫について、凍結、パラフィン包埋試料および細胞株よりDNAを抽出し、K‐,H‐,N‐ras遺伝子のexon1,2部分およびp53遺伝子のexon5‐10の各部分をPCR法にて増幅後、塩基置換を一本鎖DNAの立体構造の差に基づく泳動度の差として検出できるSSCP法にて変異のスクリーニングを行った。さらに泳動度に差が認められる腫瘍については、直接シーケンス法にて塩基配列を決定し、塩基置換を同定した。 〔結果および考察〕 1.ras遺伝子:169個の腫瘍のうち、甲伏腺濾胞腺腫4例でN‐ras遺伝子のコドン61の、また1例でH‐ras遺伝子のコドン61の点突然変異を認めた。また孤発性の褐色細胞腫1例でH‐ras遺伝子のコドン13の点突然変異を認めた。他の内分泌腫瘍ではras遺伝子の変化は全く検出されなかった。 2.p53遺伝子:134個の腫瘍のうち、甲伏腺癌細胞株3例で、それぞれコドン152,248,255の点突然変異を認め、しかも一方の対立遺伝子の欠失を認めた。また孤発性の副甲伏腺腫においてコドン151の変異を検出したが、一方の対立遺伝子は正常に保たれていた。他の内分泌腫瘍ではp53遺伝子の変化は検出されなかった。 これらの結果より内分泌細胞の腫瘍化には、rasおよびp53遺伝子以外の遺伝子異常が関与している可能性が考えられ、さらにGsα遺伝子の変異について放射性同位元素を必要としないスクリーニング法を用いて検討をすすめている。
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