線維芽細胞由来プロスタサイクリン(PGI_2)産生刺激因子(PSF)の分離、精製:我々は培養ウシ血管内皮細胞を用い、培養液中に産生されたPGI_2の安定代謝産物6-keto-PGF_1αをRIAにて測定することにより、PGI_2産生刺激活性の生物学的測定系を確立している。この測定系を用いて、ヒト線維芽細胞由来PSFの分離、精製に成功した。線維芽細胞培養上清(CM)を膜濃縮し、HPLCにより順次精製した。まず、DEAE-5PW陰イオン交換カラムで、PGI_2産生刺激活性分画を分離し、次にHEPARIN-5PWアフィニティーカラムに吸着し、溶出させた。以後、活性分画を用い、同様にPROTEIN-PAK300ゲル瀘過カラム、IGF-アフィニティカラム、C_4-逆相カラムを順次用いて分離、精製した。この段階において、PSFはSDS-PAGE上分子量約30KDaの単一蛋白因子として精製された。このPSFの分離、精製の過程において、精製度は約8000倍、活性収率は約28%であった。そこで、精製試料のアミノ酸シークエンスを決定し、線維芽細胞のcDNAライブラリーよりクローニングをおこなった。PSFのcDNAの塩基配列及び一次構造を決定した。PSFは既存の蛋白と相同性がなく、新規の蛋白性生理活性因子であることが判明した。また、PSFはウシ大動脈血管内皮細胞と同様にヒト臍帯静脈血管内皮細胞においてもPGI_2産生刺激活性を有することも証明した。しかし、PSFはヒト洗浄血小板のトロンボキサンA_2産生に対しては全く作用を持たないことも確認された。今後は、cDNAプローブを用いて、ヒトの各臓器におけるPSFの発現の差異をノザンブロッティング法にて検討を進める。さらに、抗PSFポリクローナル抗体を作成しており、生体でのPSF濃度測定系も確立している。
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