研究概要 |
我々はすでにembryo culture systemを用い培養液中にブドウ糖を添加した時,濃度依存性に神経管閉鎖木全等の奇形の発生頻度が増加する事そしてこの機序としてembryo内へのブドウ糖の過剰の取り込みの結果 細胞内にmyo-inusitolの低下を生じ奇形発生に導く事を報告した(Diabetologia 33:597,1990)(Diabetes 40,1574,1991)。さらに低濃度のブドウ糖培養液(3mM以下)で培養しても強い催奇形性を示すこと,この機序としてこの時期のembryoの主なエネルギ産生系である嫌気的解糖経路の抑制によって奇形が生じる事を報告して来た(Diabetologia 30:791,1987)(Diabetes 38:1578,1989)。細胞内のブドウ糖の取り込みは糖輸送担体(GLUT)によってなされており,5種類のisoform(GLUT-1〜-5)が存在する事が知られている。とくにGLUT-1は細胞外のブドウ糖濃度により,その発現が調節され、ブドウ糖濃度が低い場合その発現は増強し,高濃度では抑制される事が報告されている。我々は高血糖および低血糖で生じる奇形の発生機序を検討するために低血糖および高血糖で培養したembryoにおけるGLUTの遺伝子の発現の調節について検討した。器官分化早期のラットのembryoにおいてはブドウ糖の親和性の強い(Km値の低い)GLUT-1,-3が発現しており,分化増殖の盛んな神経管にもっとも強く発現しており,心臓,腸管などにもその発現が見られた。低血糖でembryoを24時間培養してもGLUT-1mRNAおよび蛋白の発現の増加は認められなかった(Acta Diabetologia,in press)。さらに高血糖で24時間培養してもGLUT-1,-3mRNAおよび蛋白もその抑制が認められなかった(Diabetologia,in press)。成熟細胞で報告されている糖輸送担体遺伝子および蛋白の調節機構がこの時期のembryoでは働いておらず,糖尿病状態において奇形発生に導きやすい事が示唆された。
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