赤血球造血の微小環境の分子機構を明らかにすることを目的として研究をすすめた。赤血球造血の微小環境を構成する間質細胞と赤芽球前駆細胞との相互作用の解析の結果、赤芽球の急速な増殖には、赤芽球前駆細胞上のc-Kitとそのリガンドである間質細胞のSCFが関与すること、赤血球造血を支持する間質細胞と赤芽球前駆細胞との細胞接着が必要であり、そこには赤芽球前駆細胞上のインテグリンファミリーの接着分子であるVLA-4が関与していることがわかった。さらに、VLA-4のリガンド分子であるフィブロネクチンとVCAM-1が間質細胞側で発現していることを示し、このうちVCAM-1が機能していることを明らかにした。ただ、これまでに明らかにした間質細胞のSCFとVCAM-1のみでは、赤血球造血の微小環境のすべてを説明できず、さらに探索を進める必要がある。また、脾臓間質細胞株を抗原として得られた単クローン抗体が認識する抗原のうち、赤血球造血の場となっている赤脾髄特異的な免疫染色像をもたらす糖タンパクについて遺伝子のクローニングを行い、新規遺伝子を単離することができた。 本研究で解析を行ったのは赤血球造血の盛んなマウス胎児肝臓と脾臓の間質細胞であったが、骨髄での微小環境を解明するために、温度感受性SV40T-抗原遺伝子トランスジェニックマウスから骨髄間質細胞株を樹立し、骨髄間質細胞株の性状を検討した。その結果、赤芽球造血を支持する間質細胞のほかに、単球、顆粒球特異的な支持細胞が存在することを見いだした。また、副次的な成果として、温度感受性SV40T-抗原遺伝子トランスジェニックマウスから樹立された細胞株の中にアポトーシスを起こすものを見つけ、その細胞死の特性はp53タンパクを介するものであることを明らかにした。
|