Stem cell factor(SCF)はストローマ細胞が産生し、未分化造血幹細胞の増殖分化を支える造血因子である。SCFは本来膜結合蛋白質として合成されるが、一部は細胞膜挿入後に酵素の作用で切断され、細胞外へ分泌される。この分泌型SCFも生物活性を有することが知られている。本年度の研究計画に基づいて、われわれはマウスSCFcDNAを3'末端から順次欠失させた一連の変異体を作製し、これらを用いてSCFの構造と機能の関係を解析した。既にクローン化済みの完全長SCFcDNAを制限酵素で切断後、マングビーンヌクレアーゼとエキソヌクレアーゼIIIの処理によって細胞外領域のみをコードする長さまで欠失させた。得られたSCFcDNA変異体6種類の塩基配列を決定した結果、それらはシグナルペプチドを除きN末端からそれぞれ183、179、162、149、142および133アミノ酸をコードしていた。また、C末端にはリンカー由来の数アミノ酸が付加されていた。次に、発現ベクターに組み込んだ各々のcDNAをDEAEデキストラン法でCOS細胞にトランスフェクションし、72時間後に培養上清を回収してその生物活性を以下の2つの方法で検討した。(1)MTT法を用いてヒト造血因子依存性細胞株TF-1の増殖支持活性を調べた。(2)5-FU処理マウスの骨髄細胞を標的として、IL3、EPO共存下でのhigh proliferative potentialーcolony forming cell(HPPーCFC)刺激活性を調べた。また、^<35>S-メチオニンで各cDNA導入COS細胞の培養上清を標識後SDSーPAGEを行い、アミノ酸数から予測される大きさのSCF蛋白質が合成されているかどうか確認した。結果として、まず各SCFcDNA変異体は予測されるサイズのSCF蛋白質をコードすることが確認された。さらにマウスSCFのN末端142アミノ酸残基は上述した両方の生物活性を有するが、133アミノ酸残基では失活することが判明した。従って、Asp^<134>からSer^<142>までの間にマウスSCFの活性保持に重要な配列が存在すると考えられた。
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