血小板無力症の分子生物学的病因解析

1993 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 04671517
• 研究機関: 東京医科歯科大学
• 研究代表者: 小山 高敏 東京医科歯科大学, 医学部, 助手 (20234916)
• 研究分担者: 加藤 淳 東京医科歯科大学, 医学部, 助手 (50183265)
• キーワード: 血小板無力症 / GPIIb-IIIa(α_<IIb>β_3) / インテグリン / 遺伝子解析

研究概要

GPIIb遺伝子について複合ヘテロと考えられる血小板無力症患者(一例目)について遺伝子解析を行った結果、エクソン17の3'端におけるナンセンス変異(CGA→TGA,Arg584→ストップ),及びエクソン26のスプライスアクセプターサイト(-3)での変異(CAG→GAG)が発見された。RNaseプロテクションアッセイにより患者血小板中のmRNAを定量したところ、前者の変異アリルより転写されるmRNAレベルは著しく減少し、蛋白質として発現されていなかった。一方、RT-PCRの結果、後者はエクソンスキップをきたし、エクソン26によりコードされる42個のアミノ酸を欠いた異常GPIIbを生じる。この異常分子はプロテアーゼによる切断部位を欠くため1本鎖で、GPIIbα鎖のC末端に存在するプロリンに富むユニークな配列を欠いている。これらの特徴を持つ異常GPIIbは第二例目の症例でも見つかっており、GPIIIaと複合体を形成せず細胞表面に輸送されない。mRNAレベルはほぼ正常であるのに血小板中の蛋白レベルが減少していることは、この異常GPIIbが翻訳後misfoldをきたす結果、安定なヘテロダイマーの形成ができずに小胞体内で破壊されるためと考えられる。一方、GPIIIaは異常GPIIbしか存在しないため同様にして二次的に減少した(正常の約11%)と考えられる。二例目の複合ヘテロと考えられる患者についても同様の検索をすべてのエクソンについて行ったが、エクソン26スプライス変異以外の異常は見いだされなかった。血小板無力症の成因は、GPIIbとIIIaが小胞体で安定な複合体を形成し、ゴルジ体へと輸送されるか否かにより、ゴルジ前(安定な複合体形成前)とゴルジ後(複合体形成後)の障害に二大別することが可能である、と考えた。そこでわれわれは、GPIIb-IIIaの生合成、細胞内輸送過程における障害部位に基づいた血小板無力症の新しい分類法を提唱した。

研究成果

• [文献書誌] 加藤淳: "血小板無力症の分子機構と病因分類" 医学のあゆみ. 164. 811 (1993)
• [文献書誌] 加藤淳: "血小板無力症-遺伝子解析による成因分析" 血液・腫瘍科. 26. 303-312 (1993)
• [文献書誌] 小山高敏: "生理的止血・病的血栓形成の機序" Medical Practice. 11. 6-14 (1994)
• [文献書誌] 小山高敏: "凝固系の働き" medicina. 30. 6-9 (1993)
• [文献書誌] 小山高敏: "TTPとトロンボモジュリン" 血液・腫瘍科. 27. 109-116 (1993)
• [文献書誌] 小山高敏: "組織因子(TF)/TFPI" 臨床検査. 37. 1227-1232 (1993)
• [文献書誌] 加藤淳: "血小板無力症の分子機構" 医学のあゆみ. 167. 225 (1993)
• [文献書誌] 加藤淳: "GPIIb-IIIaを介する2方向のシグナル伝達機構" 医学のあゆみ. 168 (印刷中). (1994)
• [文献書誌] 加藤淳: "血小板無力症" 小児科. (印刷中). (1994)
• [文献書誌] 小山高敏(他共著) 溝口秀昭.平井久丸.坂田洋一 編: "別冊・医学のあゆみ 血液疾患" 医歯薬出版, 462 (1993)
• [文献書誌] 小山高敏(他共著) 藤巻道男,巽典之,渡辺清明 編: "臨床病理臨時増刊特集第97号 検査血液学 血液凝固異常の検査診断" 臨床病理刊行会 宇宙堂八木書店, (1994)
• [文献書誌] 加藤淳(他共著) 中井利昭編: "遺伝子診断実践ガイド" 中外医学社 (印刷中), (1994)
• [文献書誌] 加藤淳(他共著) 村松正実,平井久丸 編: "遺伝子診断と遺伝子治療" 現代化学 (印刷中), (1994)