研究概要 |
GPIIb遺伝子について複合ヘテロと考えられる血小板無力症患者について遺伝子解析を行った結果、エクソン17の3′端におけるナンセンス変異(CGA→IGA,Arg584→ストップ)、及びエクソン26のスプライスアクセプターサイト(-3)での変異(CAG→GAG)が発見された。RNaseプロテクションアッセイにより患者血小板中のmRNAを定量したところ、前者の変異アリルより転写されるmRNAレベルは著しく減少し、蛋白質として発現されていなかった。一方、RT-PCRの結果、後者はエクソンスキップをきたし、エクソン26によりコードされる42個のアミノ酸を欠いた異常GPIIbを生じる。この異常分子はプロテアーゼによる切断部位を欠くため一本鎖で、GPIIbα鎖のC末端に存在するプロリンに富むユニークな配列を欠いている。これらの特徴を持つ異常IIbは別の症例でも見つかっており、GPIIIaと複合体を形成せず細胞表面に輸送されない。mRNAレベルはほぼ正常であるのに血小板中の蛋白レベルが減少していることは、この異常GPIIbが翻訳後misfoldをきたす結果、安定なヘテロダイマーの形成ができずに小胞体内で破壊されるためと考えられる。一方、GPIIIaは異常GPIIbしか存在しないため同様にして二次的に減少した(正常の約11%)と考えられる。血小板無力症の成因は、GPIIbとIIIaが小胞体で安定な複合体を形成し、ゴルジ体へと輸送されるか否かにより、ゴルジ前(安定な複合体形成前)とゴルジ後(複合体形成以後)の障害に二大別することが可能である、と考えた。そこでわれわれは、GPIIb-IIIaの生合成、細胞内輸送過程における障害部位に基づいた血小板無力症の新しい分類法を提唱した。
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