研究概要 |
我々は、種々のサイトカインのヒト急性骨髄性白血病(AML)の白血病幹細胞の増殖、AML細胞の種々のproto-oncogeneの発現、アポトーシスの誘導、cell cycleに及ぼす以下のような作用を明らかにした。 1.TGF-beta_1の作用.TGF-beta_1はG-CSFによって支持された正常ヒト造血幹細胞の増殖は抑制せず、GN-CSF,IL-3,SCFの存在下の順で増殖抑制は増強した。白血病幹細胞の増殖に対するTGF-beta_1の抑制はいずれの増殖因子を用いた場合も極めて顕著であった。アンチセンスオリゴヌクレオチド、Northern blot analysisによる遺伝子発現の検討から、TGF-beta_1の増殖抑制作用には、c-Myc,c-Mybが関与する事が示唆された。TGF-beta_1は、正常造血幹細胞のうち、より未分化なものをより強く抑制する事、白血病幹細胞に対する強力な増殖抑制作用は、内因性チロシンキナーゼ活性の活性化が関与する事が示唆された。又、c-kit,Fas mRNAの発現を抑制して、分化、アポトーシスを逆行する方向に作用すると思われた。 2.TNF-alphaの作用.TNF-alphaは単独でAML細胞を強力にS期に導入する。しかし、単独では白血病幹細胞の増殖は支持できず、IL-3などの他のサイトカインの存在が必要である。TNF-alphaは、c-kit,c-jun,Fas mRNAの発現を増強し、分化、増殖の方向に作用すると考えられた。TGF-beta_1はこのTNF-alphaの強力な増殖促進作用に拮抗的に作用した。 3.AML細胞のアポトーシス誘導.AML細胞を増殖因子非添加で、in vitro増長を行うと、一過性のc-jun,c-fos mRNAの発現がみられ、細胞のS期への移行、アポトーシス誘導が起こった。IL-3などの増殖因子を添加すると、c-junの低下、c-fosの増強が確認され、アポトーシスが阻止された。従って、c-jun/c-fosの比率の低下がアポトーシス阻止と関連していると考えられた。一部の症例では、AML細胞は、S期に入らず、c-junを発現せず、又アポトーシスも認めなかった。今後はさらに、aee cycleとアポトーシスの関係について、より詳細な検討が必要と考えている。
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