初年度として当初の研究計画に従って実施し、次のような成果を得た。入力音響信号から出力聴神経発火率を得る装置を設計し、製作した。本装置は聴神経の同調曲線を模擬するFIRフィルターと有毛細胞・聴神経シナプス信号伝達を伝達物質を介するMeddisのモデルに基づき60個のDSPによる28チャネルの並列実時間処理ハードウェアとして実現した。DSPの16ビット固定小数点ハードウェアを用いて汎用機による不動小数点演算と同等な精度を実現した。標準的な直接構成型64次のFIRでは精度が不十分な低周波3チャネルを新規に周波数標本化型FIRフィルタで設計して、計算量の低減と特性改善した。ワークステーションで開発した聴覚モデルソフトウェアをパソコンに移植しパソコン支援機の開発の準備を進めた。ハードウェアインタフェースの開発は次年度の予定である。聴覚モデルに基づく人工内耳のための音声処理と内耳埋め込み電極の刺激戦略をワークステーション上で評価した。すなわち、22チャネルの電極の選択とタイミング決定方式の有効性を確認するため、音響信号に変換し、人工内耳装用者の聴取感覚を疑似的に体験できるようにした。変換された音響信号はパルスごとに電極位置に対応した帯域フィルターを通した短い雑音を生成する。健聴者が電極刺激戦略を聴取実験で比較したところ、最良の評価が得られた方式は、1〜3チャネルの出力発火率の和から抽出したピッチ周期ごとに発火率の大きいチャネルを上位4位まで選択してパルスで刺激する。以前の方式よりも明瞭度が改善されているが人工内耳装用者による聴取実験に適用するには更なる方式の改善が必要と考えている。試作機の開発配布については、パソコンへの移植が進行中である。当初計画したブック型パソコンではなく音声の入出力と表示の効果が格段に向上したマルチメディア対応のパソコン機種に移植する計画である。
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