研究概要 |
マウスの種間雑種にみられる雄性不妊現象、および雑種雌における妊性の低下現象の遺伝的支配機構を明らかにするため、以下の研究を行ない、いくつかの成果を得た。 1)実験用近交系マウスC57BL/6とヨーロッパ産野生マウスMus spretus,M.hortulanusのF_1雑種雄の精母細胞における染色体対合状態を、抗シナプトネマ構造蛍光抗体および電子顕微鏡を用いて分析した。その結果、種間雑種の雄性不妊現象の主な原因は、性染色体の対合異常に伴う細胞死であることが判明した。 2)性染色体の偽常染色体部位が種間雑種の妊性に及ぼす影響を調べるため、C57BL/6とM.spretusのF_1雌にC57BL/6およびM.spretusを戻し交配して偽常染色体部位のコンジェニックマウスの作製を試みた。現在第5代の子孫が得られているが、XY染色体の対合異常と不妊性に強い相関がみられるため、偽常染色体部不和合性が種間雑種の雄性不妊の主な原因であり、常染色体上の遺伝的要因はあまり関与していない可能性が示唆された。 3) C57BL/6とM.spretusの雑種精巣からmRNAを抽出し、ノーザン分析によって精子形成に関与する遺伝子の発現を調べた。その結果、不妊雄の精巣ではPgK-1の発現に比べてPgK-2の発現が非常に低く、PgK-1からPgK-2への発現のスイッチングが正常に行なわれていない可能性が示唆された。この結果は、不妊雄の精巣ではX染色体の不活性化が阻害されている可能性を示すものである。 4)C57BL/6とM.spretusのF_1雑種雌は、妊性を有するにもかかわらず妊性の低下がみられる。この原因を調べるため、戻し交配した妊娠マウスを用いて経時的に胎児死亡の有無を調べた。その結果、8.5日令で約20%の胎児が死亡することが判明し、雑種雌の卵母細胞における染色体不分離によって引き起こされる胎児染色体の数的異常が、胎児死の原因である可能性が示唆された。
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