本研究は、遺伝子資源保存の観点より、胚及び配偶子の凍結による野生マウス遺伝子の保存システムを確立する目的で計画された。これまでの研究で胚の凍結保存システムについてはほぼ確立できた。しかし、一般的に一地域から採集される野生マウスの個体数は必ずしも多くはなく、ときには雌雄の一方のみしか採集できない場合がある。これに対応するためには配偶子、すなわち卵子及び精子の凍結保存法を確立する必要がある。本年度は配偶子、特に卵巣の凍結保存法について検討を加えた。 1.組織学的検討 凍結保護剤に1.5M DMSOを用い凍結過程の植氷点(-7℃)、緩慢凍結終了点(-30℃)、その後の急速冷却による凍結終了点(-180℃)まで卵巣を凍結後、急速融解し組織学的に検討した。その結果、-30℃までは卵巣組織の傷害は比較的少なく正常な形態を持つ卵母細胞が多数観察された。一方、-180℃ではその傷害の程度が大きく正常な卵母細胞は一部に見られるのみであった。また、glycerolを用いた超急速凍結ではほとんどすべての細胞が傷害を受け、核は凝縮していた。 2.移植実験 上記の条件で凍結した卵巣を融解後、移植実験により凍結卵巣由来の産仔が得られるか検討したところ、対照区及び-30℃まで凍結した卵巣移植個体より産仔が得られた。これは組織学的検索の結果と良い対応を示した。 今後の展開として、緩慢凍結域を-30℃からさらに低温にどこまで移すことができるか、どの温度からなる凍結終了温度への急速冷却が可能か、また、そのときの融解法、などを検討することにより卵巣の凍結保存法を開発したい。
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