本研究は、遺伝子資源保存の観点より、胚及び配偶子の凍結による野生マウス遺伝子の保存システムを確率する目的で計画された。これまでの研究で胚の凍結保存システムについてはほぼ確立できた。しかし、一般的に一地域から採集される野生マウスの個体数は必ずしも多くはなく、ときには雌雄の一方のみしか採集できない場合がある。これに対応するために配偶子(卵子及び精子)の凍結保存法を確率する必要がある。そこで著者は卵子の代わりに卵巣を凍結保存することで、融解後の卵巣移植により胚もしくは個体として野生マウスを回収することを計画した。今年度は昨年度に引続き卵巣の凍結保存法について検討を加え、その条件を明らかにした。 1.冷却速度の検討:冷却温度を-30℃として緩慢冷却速度について検討したところ、0.1、0.2、0.5℃/minのいずれにおいても融解後の移植によって産仔を得ることができた。しかし、凍結卵巣由来の産仔の最も早い初産日は、それぞれ移植後43、40、141日目(対照は41日目)であり、冷却速度0.5℃/minでは発育した卵母細胞に障害を起こすことが示唆された。 2.卵巣凍結保存プログラム:緩慢冷却終了温度をより低下させることでその後の急速凍結に耐えられるか検討したところ、冷却速度0.2℃/min、緩慢凍結終了温度を-40℃に設定することで卵巣の液体窒素中での凍結保存が可能になった。融解後の凍結卵巣由来の平均産仔数は2.0匹と少ないこと、また、全ての凍結卵巣から産仔が得られるわけではないことから、卵巣組織の多くが障害を受けている可能性が示唆された。 今後の展開として、より高率に産仔を得るための凍結融解条件の検討、凍結保存行程の時間的短縮化の試み、ガラス化法の導入などを検討することにより卵巣凍結保存の実用化を計りたい。
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