本研究は、遺伝子資源保存の観点より、胚及び配偶子の凍結保存による野生マウス遺伝子の保存システムを確立する一連の計画に含まれるものであり、本研究計画年度内では、配偶子の凍結保存法、特に卵子の支持組織を含む卵巣の凍結保存法の確立を目指し、以下に示す手法により凍結保存条件を明らかにした。 1.組織学的検討:凍結保護剤に1.5M DMSOを用い、緩慢冷却速度0.1℃/minの条件下で凍結過程の植氷点(-7℃)、緩慢凍結終了点(-30℃)、その後の急速冷却による凍結終了点(-180℃)まで卵巣を凍結後、急速融解し組織学的に検討した結果、-30℃までは卵巣組織の傷害は比較的少なく正常な形態を持つ卵母細胞が多数観察された。一方、-180℃ではその傷害の程度が大きく正常な卵母細胞は一部に見られるのみであった。 2.移植実験:上記の条件で凍結した卵巣を融解後移植したところ、対照及び-30℃までは産仔が得られ、組織学的検索の結果と良い対応を示した。 3.冷却速度の検討:冷却温度を-30℃として緩慢冷却速度について検討したところ、0.1、0.2、0.5℃/minのいずれにおいても融解後の移植から産仔を得ることができた。しかし、凍結卵巣由来の産仔誕生は、それぞれ移植後43、40、141日目(対照は41日目)であり、0.5℃/minでは発育卵母細胞に障害を起こすことが示唆された。 4.卵巣凍結保存プログラム:緩慢冷却終了温度をより低下させることでその後の急速凍結に耐えられるか検討したところ、冷却速度0.2℃/min、緩慢凍結終了温度を-40℃に設定することで卵巣の液体窒素中での凍結保存が可能になった。融解後の凍結卵巣由来の平均産仔は2.0匹と少ないこと、また、全ての凍結卵巣から産仔が得られるわけではないことから、卵巣組織の多くが障害を受けている可能性が示唆された。
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