研究概要 |
Arthromyces ramosus由来のペルオキシダーゼ(ARP)の立体構造をX線結晶解析により決定し、この酵素の反応機構を明らかにした。平成5年度の研究成果は以下の通りである。 1。ARPの結晶構造を重原子同型置換法で決定し、simulated annealing法により7.0-1.9〓分解能の19,191反射に対し、R=17.4%にまで精密化した。これにより乱れた構造をとっているN末端の8残基を除く全てのペプチドおよびヘムのコンフォメーションに加え、2残基の糖、4本のジスルフィド結合、2個のカルシウムイオンへの配位およびARPに結合している水分子の様子を明確に決定することができた。 2。ARPの立体構造は、チトクロムcペルオキシダーゼや、ほとんど同時に構造決定されたリグニンペルオキシダーゼのそれと基本的に同じフォールディングをとっているが、細部において異なる点が多い。注目すべきことに、活性部位であるヘムの遠位側のヒスチジンとアルギニン残基は、全てのペルオキシダーゼで一次構造上保存されているにもかかわらず、ヘムに対して異なった配向をとっていることが明らかになった。 3。ペルオキシダーゼの反応機構をより深く理解するため、基質アナログI_3^-をARPの活性部位に結合させ、その複合体の構造を決定した。この結果アルギニン残基は動かず、ヒスチジン残基のイミダゾール環が回転するという、基質結合に伴う活性残基の動きを明らかにした。これらの情報をもとに、過酸化水素が活性部位にどのように結合するかをコンピュータグラフィクスを用いてシミュレートしたところ、この酵素が触媒する反応の素過程および活性残基の役割を合理的に説明することができた。
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